生徒が成長する一歩目に気づいた瞬間
ジゼルバレエ
鈴木恵美子さん
のんびりとしたバレエ教室だけど、
子どもの成長には、気づいて、
寄り添っていけるって思っています
ちょうど、今日からトウシューズデビューする子がいるんです。
バレエの背伸びの状態をルルベっていうんですけど、「高い位置でルルベできるようになったら、トウシューズはかせてあげるね」って約束していて。
で、今日がその日。トウシューズはバレエをやっている子の一つ目の目標だから、きっとワクワクして待っていたんだろうなあ。
私の教室は、プロのバレリーナを目指そうっていうのじゃなく、楽しくバレエしようね、っていうところを目指しています。でも、やる気がある子には、やっぱり目に見える形で一歩進ませてあげたいなあって。だから、一般のクラスのあとにトウシューズクラスで少しだけ本格的な指導もしているんですよ。
子どもって、急に変化したり成長します。
いくら「自信を持って。自分だけを見てやろう。間違うことは悪いことじゃないよ」って言っても、隣の友達を見ながらキョロキョロしてやっちゃう子っていますよね。
でも、そんな子もある瞬間に、失敗を恐れずにレッスンに集中するときが来ます。その中で、伸び時のちょっとしたきっかけを見極められたら、その子に目をかける。するとね、メキメキと伸びるんです。
あ、この子、次に行ける。
それを見た瞬間、私もスイッチが入りますね。その瞬間に立ち会えるのも、バレエの先生としての幸せだと思ってます。
妊娠中に踊った「ジゼル」が
私の誇り
可愛い服を着たい一心で、5歳のときにバレエをはじめました。
初めに通っていたのはスポーツクラブのレッスンの中の一部としてのバレエで、本格的なバレエの先生に付いたのは小2から。そこからどんどんバレエにのめりこんで、先生の自宅スタジオにも通いました。でも、そういうところに行くと、当然みんなレベルが高くて、何かしら得意なものを持っている人ばかり。
「私、何もないな」って気づかされちゃったんです。
でも、練習が大好きだったから、足が上がるようになったとか、バランスがとれるようになったっていうのが楽しくて。発表会の練習よりも、普段の地味な基礎レッスンの方が好きなんて、珍しいですよね。
24歳のときに妊娠がわかったんですけど、そのときにずっとやりたかった役がまわってきたんです。「ジゼル」っていう作品のダンスが大好きな村娘ジゼルの役。
いつも、やりたい役と与えられる役が違っていた私にとっては、もう飛び上がりたいくらい嬉しかった。バレエをやっている人って、妊娠してもわりとみんな「衣装キツイね」なんて平気で踊ってるんですけど、私も「今までやってきたことだから大丈夫!」みたいな感じで舞台に立ちました。
これをやったらもう心残りなんてない、これでしばらく踊れなくても我慢できる。そのくらい幸せでした。
2児の育児を経験したから
生徒の成長を待てるようになったのかも
出産後は、しばらくバレエから離れていたんですが、幼稚園のママ友から「バレエ教室を探してるんだけど、どこも高いし、本格的だし…。簡単なのでいいのよ、やってくれない?」と言われたことがきっかけになって教室をはじめました。
途中、下の子の出産前後にお休みをいただいたり、復帰後は、抱っこひもをしながらレッスンをしていたこともあります。その状態でも理解いただいて教室に通い続けてくれている生徒と保護者の方にはもう本当に感謝ですね。
お母さんから「うちの子、教室ではどう?」みたいに相談を持ちかけられたりもしますよ。あとは生徒がお手紙書いてきてくれたり、レッスン前後にお話をしたり。
「せんせいへ、バレエがんばるね」
なんて平仮名で書いてあって、本当に可愛いですよ。
こんな距離感でいられるのも、私、あまり怒る先生じゃないからかもしれないです。背中を押したほうが伸びる子もいるんですけど、もちろんそういう子ばかりではない。大人でも気分が乗らないときってありますよね。
こう思えるのも、自分の息子が言った分だけ伸びるとか、そういうタイプではないからかな。ある程度待つ育児も大事だって自分の経験で思っているので、子どもを見ながら、上手く誘導していきたいですね。
インタビュー 伊藤 紘子 / 撮影 桜坂 卓也
ジゼルバレエ
鈴木恵美子さん
1981年生まれ。東京都台東区出身。5歳でクラシックバレエ、モダンバレエ、ジャズダンスをはじめ、各種コンクールに出場。結婚・出産を機にバレエから遠ざかるが、息子が自分がバレエと出会った年齢を迎えたのをきっかけに「気軽にバレエをはじめられる場を作りたい」とジゼルバレエを立ち上げ、講師活動をスタート。2児の母として子育てをする経験も指導に役立てている。