知らない自分を発見した瞬間
株式会社スタジオポルト
若狭 和明さん
禿げを帽子で隠せる環境
仕事中に帽子を被れるということは、小さな幸せですね。
たとえば、取材しているときに帽子を被っていないと、なんか相手の目線が頭の方をとらえていたりする瞬間があるんですよね。禿げてきているから。家を出るとき、しっかりセットするんですけど、ちょっとした動きとか、風とか自然現象が隙間を作っているんでしょうね。そういうのを気にしないでよいので、帽子って幸せです。劣等感を隠すことができるので(笑)。
編集者ってスーツを着て、ビシッとしなければいけないシーンは少ないと思います。業種的にわりと許されているというか。髭を生やしていても違和感があまりないんですよね。そういう縛られていない雰囲気はよいですね。
最近、業務時間内は帽子を脱ぐようにはしていますが、若い頃は帽子を被ったまま仕事していたこともありました。許されていたのかはわからないですけど、常識内で、自分のスタイルを楽しむことができるんじゃないですかね。サラリーマンに変わりはないのですが、あまり縛られていない環境で働けるというのはひとつの醍醐味かもしれません。
数年後に再会する喜び
取材や撮影でいろんなところにうかがったり、さまざまな人と出会ったりします。たとえばグルメ系の書籍なら店舗の取材。店の歴史や看板メニューなど必要に応じてインタビューします。書籍を作成しているときは、ビジュアルやテキストなどの構成に注力し、よりよい紙面作成に精を出しているといった感じで、充実感がありますね。
無事出版して、本屋の棚に自分の書籍が並んでいると、やはりうれしいものですが、それだけでは終わらないんです。ある日会社の後輩を連れて仕事帰りに飲みに行ったとき、「あれ、ここの店知っているぞ」という感覚になったことがありました。偶然、若い頃に自分が取材した店だったんです。当時の店長がまだ現役でやられているのを見ると、感慨深いというか、ちょっとした幸せを感じますね。「この店はオムライスがおいしかったはずだ」とか思い出して、部下に得意な顔で語れるのもよいです(笑)。キャリアを積んでいくと、知っているお店や人が増えていく。これからも偶然の再会は楽しみです。
偶然と言えば、先日、ホーローのライスストッカーを買ったんです。それを見た妻が、気に入ったって言って喜んでくれた。一緒に買いに行った訳ではないんですけれど、偶然妻が欲しかったやつだったみたいで。生活をしていて、たまに訪れるそういう偶然も好きです。
自分一人では起こさないアクション
アクセサリーの作り方の書籍に携わったとき、掲載した作家さんの手作りアクセサリーをご厚意でいただいたことがありました。胸に付けるブローチだったんですけど、私は普段そういったアクセサリーを買うことなどなく、ひとつも持っていませんでした。
けれど、本を制作していくなかで、どんぐりのブローチが気に入っていたんです。かっこいいなと。編集者をしていると、自分の好みや得意ジャンルの仕事以外で、全然知らなかったことに触れられる機会も多いと思います。
手作りのブローチも編集者として書籍に携わっていなかったら、目にとめていなかったんじゃないかな。いただいたブローチは、シンプルな服装のワンポイントで付けることがあるんですけど、それって自分一人では絶対起こさなかったアクションなんですね。書籍の制作を通して、世界が広がるというか、自分の生活に変化が訪れるんです。些細な変化をふとしたときに、ジンワリ感じています。結構、よいものです。
インタビュー トグチダ / 撮影 北原千恵美
株式会社スタジオポルト
編集部 部長
若狭 和明さん
岡山県出身。24歳で上京後、本の制作会社にて勤務。雑誌、ムック、書籍、企業PR誌の編集やディレクションに携わる。本のみにとらわれず、表現の場を動画やイベント等に拡大中。ファッションに困ったときは、ボーダー柄に頼る。
「株式会社スタジオポルト」
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