デザインに小さいこだわりを散りばめている瞬間
フリーランスデザイナー
車田 泰雄さん
授業中はいつも絵を描いてばかりいる生徒でした
フリーのデザイナーとして、主にアニメ関係の本や雑誌のエディトリアルデザインをしています。
デザイナーになったきっかけは、子供の頃から絵を描くこと、本や漫画を読むことが大好きだったことにあると思います。学生時代、授業中はずっと絵ばかり描いていましたし、家では本や漫画をひたすら読んでいましたから。そんな日々を過ごしているうちに、出版関係の仕事に就きたいと考える様になり、編集やデザインを学べる専門学校に進学したんです。
同期の多くは僕と同じように「本や雑誌を作るのが夢だ」という人たちだったので、学生生活はとても刺激的でした。そんなある時、同期のメンバーに誘われて1から雑誌を作り上げるプロジェクトに参加することになったんです。しかも、僕が授業中に絵ばかり描いていたことが目に留まり、アートディレクターとして抜擢されることに。それが、雑誌のデザインを手がけたはじめての経験でした。
その後、在学中に友人からデザイン事務所を紹介され、アルバイトとして働き始めました。初めはわからないことばかりで、写真の輪郭を切り抜くといったソフトの基本的な操作もできなかったんです。しかし、ずっと夢見ていたエディトリアルデザイン業務中心の事務所だったこともあって、仕事にはどんどんのめり込んでいきました。のめり込みすぎた結果、学校を途中で退学することになったのですが(笑)。
その事務所に勤めてから3年経つ頃には、自分の中で思い描いたイメージを自在に形にできるまでになり、周囲の人からも信頼されるデザイナーに成長できました。そんな時、事務所の先輩が新たに会社を立ち上げることになり声をかけていただいたんです。
2年間という期限付きでしたが、新たな職場で雑誌のデザインをすることになりました。期限を区切ったのは、その間に自分の方向性を定める為。漠然とですが、これから手掛けたい仕事について考え始めていた頃だったんです。
その後、約束通り2年間勤めたあと、2015年の6月からフリーランスとして独立を果たしました。
自分らしさをデザインの細部に散りばめる
独立に至るまでの間、僕の中で固まったことがあります。それは、仕事の中でも自分が好きな漫画やアニメのデザインを強みにしていこう、ということ。今携わっている仕事も、アニメ雑誌の特集や、アニメ関連のムックが多いんですよ。実際の仕事を通じて、漫画やアニメが好きだからこそデザインできるものがある、ということを感じています。
たとえば、アニメのキャラクターの衣装や持ち物がそうです。細かいアクセサリーや、楽器や武器、キャラクターのシルエットのデザインは作品を知らない人は描けません。
加えて、仕事を手がける上で「ささやかなこだわりを添えること」を大事にしています。一見しただけではなかなか気づかない細部にも、僕だからこそできるデザインを意識して力を注ぐ。「誰かに気づいてもらえたら嬉しいな」なんて思いながら、誌面のデザインに小さなこだわりを散りばめているんです。
実際に、僕が携わった雑誌のデザインに対する反応がSNS上で話題になった時があったんです。本当に細部のデザインにまで言及してくれていて、やっぱり細かいところまで見てくれる人はいるんだな、と実感した瞬間でした。それからますますデザインの細部にまでこだわりたい気持ちが強くなり、いつもどんなこだわりを潜ませようかと楽しみながら作業しています。
デザインから印刷まで、
紙のデザインのスペシャリストへ
僕は幸運な人間だと思っています。26歳の今、夢だった本や雑誌を作ること。それから、アニメや漫画に携わる仕事に就くこと。念願だった夢が2つも叶っています。
これからの目標は、さらに紙のデザインを突き詰めていくこと。これまで積み重ねてきたエディトリアルのノウハウに更に磨きをかけて、新しい表現にも挑戦していきたいです。紙のデザインはデザイン手法や印刷知識、装丁センスなど求められる能力が多岐に渡ります。それ故に、仕事をするたびに奥深さを感じさせられる。だからこそもっと掘り下げていきたいと思っているんです。
個人事務所の名称は「カルテット」。このネーミングは「CMYK」という紙媒体のデザインに用いられる4色のカラーモードに由来しています。コミュニケーションツールである名刺にも「CMYK」の4色のドットを散りばめ、さらに印刷物にお馴染みの「トンボ」もデザインしているんです。これらは全て僕の紙デザインへの思い入れが詰まっているんですよ。
「カルテット」という名に込めた紙のデザインに対する思いを胸に、デザインから印刷まで多岐に渡る知識を持ったスペシャリストを目指していきたいですね。
インタビュー 近内 一眞 / 撮影 岡本 卓大
フリーランスデザイナー
車田 泰雄さん
1989年、神奈川県出身。
専門学校中退後、デザイン事務所に勤務。
5年間務めたのち、2015年よりフリーランスとして独立。
アニメ関係をはじめとする雑誌、書籍、ムックなどの装丁、組版などエディトリアルデザイン、アニメ作品のロゴデザインなど、紙媒体を中心にデザインを幅広く手がける。
http://quartet-design.com/