36匹の「くまかろん」に見つめられる瞬間
Bois de sucre【ボワ・ドゥ・シュークル】
中村 彩さん
気分が落ちているときマカロンは作らない
気分が不安定なときは、マカロンは作らないんです。無理して作っても、顔色の悪い子たちができちゃうから(笑)。
マカロンはお店の一番人気でもあるけれど、実はとても繊細なお菓子。その日の温度や湿度、材料の状態によって混ぜ方や焼き時間を調整しないと、ふくらみ方はもちろん、食感も味も甘さもまるで変わってしまうんです。10年くらいずっと作り続けていますが、いまだに失敗することも・・・。
だから、いい顔で焼きあがったマカロンを見れるだけでもうれしいんです。中でも、くまの形をした「くまかろん」達の顔を描き上げたときの眺めは圧巻です! 36匹みんなが「こっちを見てる」という感じ。焼き菓子って、オーブンを開いた瞬間が、一番いい匂いなんですよ。その匂いを独り占めして、ぎっしり並んだ「くまかろん」に見つめられる瞬間は、小さな幸せです。
くまかろん
ハロウィンのカボチャやお化けのアイシングクッキーなどもそうですが、お菓子って顔があると愛しい。なるべくひとつひとつ、違った表情にして、お客さんが「この子がいい」と自分だけのお気に入りを選んでくれるのがうれしいですね。
オーダーメイドのアイシングクッキーは、結婚式やお店の周年記念、企業のノベルティなどさまざまな注文が入ります。いわゆるキャラクターものの発注が多いのですが、昔から色にこだわりがあるので、色の再現には過剰な情熱を燃やしてしまいます。輪郭はトレースしますが、中の絵柄はアイシングを使ってフリーハンドの模写。いつかアニメーターに転職できるかも? と思えるくらい鍛えられました。
仕事以外はすべて飽きっぽい
27歳でお店を出したというと、みんなから「すごく計画的でしっかりしてるんだろうな」と思われるみたいですが、全くそんなことはなくて・・・。ふだんはボーッと生きていて、周りの人たちに助けられてばっかりです。
仕事以外はすべて飽きっぽいし、集団行動や組織が苦手。もともとは“お店とか面倒臭い派”だったんです。
最初に外苑前にお店を出したときは、昔からお世話になっている和食ビストロのオーナーさんが『ここを使っていいから自分でやれ』と背中を押してくれて、お店の一部を間借りした形でした。ドアを開けるとお菓子のショーケースがあり、その奥に寿司カウンターがあるという異空間(笑)。
その後、地元への移店を考えたときは、初めは工房として小さな物件を見つけて、販売はオンラインショップで、という考えもありました。でも、縁あってこちらの井の頭の物件と巡り会い、それが運命的なものを感じる出会いだったので、店舗として使わせてもらうことにしたんです。
小学生の女の子たちの噂話に登場
今では早まってオンラインショップにしなくてよかったと思っています。お店に来てくれるお客さんたちから、「おいしかった」と言われたり、小さなお客さんが「私も将来クッキー屋さんになる!」と言ってくれたり。「あなたのお店のお菓子がこんな幸せを運んできてくれた」と素敵なエピソードを聞かせてくださる方もいらっしゃいます。恥ずかしい話ですが、お店を始めてから、人って優しいんだなと思えるようになりました。
先日は、お店の前を下校する黄色い帽子をかぶった小学1年生の女の子たちに「あ、ここ知ってる」「くまのマカロンのお店でしょ」と噂されていました。そんな瞬間も、何だかうれしいですね。
外苑前にオープンしてから数えると、気づけばお店も7年目を迎えます。飽きっぽい自分が、よくここまで続けられたなと思うのですが、お菓子作りだけは毎日続けても飽きません。幼稚園のときの夢だった「クッキー屋さん」。これからもひとつひとつ心を込めて焼いていきたいと思います。
インタビュー 山口 彩 / 撮影 辰巳 隆二
Bois de sucre【ボワ・ドゥ・シュークル】
中村 彩さん
東京都出身。エコール辻東京校卒業後、辻調グループフランス校入学。在学中、リヨン近郊のMOFのパティスリー『Prince de France』にて研修。その後、日本・パリの数店舗でパティシエとして勤務後、2009年10月北青山にパティスリーをオープン。2014年12月同店をクローズし、2015年3月、三鷹市井の頭に新しく生まれ変わった『Bois de sucre(ボワ・ドゥ・シュークル)』をオープン。趣味は映画鑑賞、美術館・レストランめぐりなど。
Bois de sucre【ボワ・ドゥ・シュークル】
住所 東京都三鷹市井の頭4-14-11 1F
電話 0422-24-6463
営業 11:00〜19:00
定休日 月曜日、第1・第3火曜日
[Facebook/ボワドゥシュークル]