振り付けやレッスンに文句を言われる瞬間
ダンス・スタンド
安木 ようこさん
長い間、自分が踊れる場所がなかった
私、すっごくわがままで(笑)。子どもの頃から先生の振り付けに文句を言う子どもだったんです。バレエを始めたのは4歳、6歳からはモダンダンスも始めました。周りの子は素直に先生の振り付けを真似るけれど、自分はそうしたいと思わない。もっとこう動きたい、こんなポーズを見せたい、そんな想いがありました。
でも、それを主張しても当然受け入れてもらえなくって・・・。小学校4年生のときには、練習のときは言うことを聞いて、本番だけ自分の思ったように踊る、ということもしでかしましたね(笑)。
そんな性格だったので、自分が踊る場になかなか恵まれませんでした。先輩に「ここはいいよ」と教えてもらった劇団やダンスカンパニーの公演を観に行っても、振り付けがイヤ、表現の仕方がイヤ、衣装が気に入らない・・・。
でも、「もっとこうしたい」という想いから、創造性は生まれると思うんです。だから今、バレエ教室の生徒から、「この振り付けはイヤ」「これはやりたくない」と文句を言われる瞬間は、むしろ喜びを感じますね。突拍子もないことをする子ほど将来が楽しみじゃないですか。「じゃあ、どうする?」というところから、その子の創造性がどんどん芽生えていくし、新しい世界が広がっていくでしょう?
うちの教室では小学校5〜6年生の子はみんな、ソロの曲選びから振り付け、ストーリー、どんな景色を思い描いて踊るかまで、すべて自分で決めさせているんです。中学で必修となったダンスの授業で、リーダー的な存在になってくれるといいなあとも思っていますね。
教えるのが楽しくなったのはケガの功名
とはいっても、そんな心境になれたのは27歳くらい。16歳の頃から講師のアルバイト助手をしていましたが、始めのうちは嫌々やってましたね。自分が器用だった分、「どうしてできないの?」とうまく踊れない生徒を理解できなかった。
それが、自分がケガをしたり、腰や膝を悪くしたり、思うように踊れなくなったところから変わってきたんです。何でできないのか、ということが身をもってわかるようになってきた。それと同時に、10年くらい教えてきた生徒たちの成長を感じられるようになったんです。そこからですね、面白くなったのは。
それまでは踊りを見せて真似させる、という教え方だったのが、わかりやすい言葉で伝えるよう工夫するようになりました。例えば、つま先をピンと伸ばすときは「ピカピカ〜!」、元に戻すときは「ボロボロ〜!」とか。笑顔で目線を上に持って行かせたいときは「先生の頭の上においしそうなケーキがあると思って見て〜!」とか。
できなかったことができるようになったときの、生徒たちの「できたーっ!」という表情を見る瞬間は、たまりませんね。実際にキラキラと星が瞬くのが見えるくらい。
60歳になったら引退して「ばばぁBar」をやりたい
自分自身が踊る場としては、“今を踊る”コンテンポラリーダンスのカンパニーに所属しています。実は本番中、舞台の上って人知れず事件がたくさん起きるんですよ。衣装のパーツが落ちる、登場するべき人が出てこない、小道具がありえない方向を向いている・・・などなど(笑)。それを、お客さんに気づかれずにすまし顔で処理できたときも、小さな快感を感じますね。
気づけば30年以上後進を育てる仕事をしていますが、60歳のばばぁになったら教える仕事は引き継いで、「ばばぁBar」という名のバーをやりたいと思っています。飲む人たちがいる場が好きだし、成人した教え子たちが気軽にふらっと立ち寄れるような、人々が集う場を提供したいですね。
インタビュー 山口 彩 / 撮影 Maaya
ダンス・スタンド
代表
安木 ようこさん
ダンス&バレエ教室『ダンス・スタンド』代表(調布市深大寺及び三鷹市)。
4歳よりバレエ、6歳よりモダンダンスをはじめる。
30年以上に渡り後進の指導に携わるかたわら、現在もコンテンポラリーダンスカンパニー”レゾナンス”に所属。国内外の公演に参加。
また、高齢者向けに、椅子に座っての運動【ケア・ストレッチ】を開発・指導を行う。
勝田台幼稚園正課バレエ講師(千葉)、大杉芸術学園バレエ科講師(市川)、アトリエ ドゥ バレエ フェリ講師(幕張)、調布フィーリングアーツ会員。
ネバダ州立大学公認ピラティスインストラクター。