時間をかけてつくった作品を忘れる瞬間
CGクリエイター
木原健次さん
グラフィックデザインからCGのデザインへと
日本人のように見えるかもしれませんが、僕はブラジル人。おじいちゃんが日本人で、父も母もブラジル生まれという日系3世なんです。生まれも育ちもブラジルの首都であるサンパウロ。子どものときから絵を描くことが好きだったので、サンパウロの美大でグラフィックデザインを勉強しました。
美大を卒業してからは、ブラジルでデザイン関連の仕事をしていました。webサイトのデザインやイラスト、映像のアートディレクターやロゴの作成など、デザインに関わるいろいろな仕事をフリーランスでやっていました。フリーランスになる前は、結構転職を繰り返していました。最終的に「会社員でいるよりも、フリーランスの方が自分の時間をつくれるからいいな」と思って、フリーランスに落ち着きました。
自分のルーツである日本の文化を知りたくなって
ブラジル人には日系人がたくさんいたけれど、日本語を話せない人がほとんど。僕のお母さんもあまり日本語が話せません。僕はおじいちゃんと日本語で会話していたから日本語ができるようになったし、日本的な教育を受けてはいたけれど日本という国については全く知りませんでした。
自分のルーツである日本の文化をもっと知りたくて、インターネットで「アメトーク」など日本のテレビ番組を見たり、漫画を読んで漢字を勉強したりしてました。日本語検定試験にも合格したので、ブラジルで日本語教師をしていたこともあります。まぁ基礎だけですが。いつかは日本に住みたいと思ってましたね。
そんなときに、国際交流基金の留学プログラムに参加できることになりました。学費も生活費もかからずに、日本に留学できるプログラムです。そのときに、札幌にあるCGの学校に10カ月ほど通い、CGの製作方法を詳しく学ぶことになりました。CGのソフトを教わったことで、CGって面白いと思うようになりました。CGを学んだことによって、これまで平面でデザインしていたものを立体的に動かすことができるようになったんです。今までの知識も活かせるし、仕事の幅も広がるし、これはいいなって。
そして、その学校の先生の紹介で、東京の会社で働けるようになったんです。なんだかいろいろな縁がつながった感じでした。今はその会社の仕事もしながら、フリーランスでCGをつくっています。
日本とブラジルだとかなり仕事の仕方も違うので、最初はいろいろなことに驚きました。
ブラジルは日本のように時間に厳しくないです。上司も遅刻してきたりするし。あと、日本は縦社会なんだなって。上下関係をすごく気にしているので上司に意見したりしないと聞きました。ブラジルでは自分の意見があるときは、上司にだって、はっきり言います。
まだ日本に来て1年と少し。仕事のやり方も含めて、いろいろなことが新鮮です。
同じ作品に1カ月向き合うことも
僕がやっている仕事は、映像上で動かす物体の企画から、一連のストーリーのあるものを考えたりとさまざま。使用される媒体も、CMや映画などいろいろあります。2分くらいのCGをつくるのに、1カ月以上かかることもあります。
例えば人物が動くCGをつくるには、Photoshopなどで人物のイメージをつくってから、それを動かすための実際の作業をしていきます。納期があるので、徹夜で作業することもよくあります。作品が完成に近づいてきて、「これは納得できるな」と思うようになれたとき、頭の中のイメージに近づけたときは、やっぱり嬉しくなりますね。
納品が終わると、その作品を自分のポートフォリオに入れるんですが、その瞬間が一番嬉しい。やっと終わったっていう気分になります。ずっと見ていたから「もう見なくて済む」と、ほっとします。
デザインから仕事を始めた僕ですが、3DのCGができるようになって、仕事の幅が広がりました。
納期があるのでどうしてもギリギリになってしまうこともありますが、自由な気持ちを大事に、これからも仕事に取り組んでいきたいですね。
日本とブラジルとの違いで思うのは、日本人はあまり自分の時間をつくっていないなと感じます。
いつかはブラジルに帰るつもりですが、仕事はもちろん、人との会話や自分の時間など、日本にいる時間すべてを大切にしていきたいですね。
インタビュー ナガソクミコ / 撮影 北原千恵美
CGクリエイター
木原健次さん
ブラジルサンパウロ育ちの日系3世。ブラジルの美大で立体や平面デザイン、映像製作を学んだのち、グラフィックデザインやイラストレーターとしての仕事に携わる。国際交流基金のプログラムで日本に留学したことがきかっけで、日本に移住しCGクリエイターとしてフリーランスで活動する。イラスト、写真、音楽など多方面で製作活動中。
ポートフォリオ:www.kenjha.com