カウンター越しにお客さんの喜ぶ声が聞こえる瞬間
大衆酒場「三平」
中嶋忠彦さん
気がつけば創業50年、
メニューの多さによく驚かれます
ウチは、今年でちょうど創業50年。早いですねえ。もともとは、葛飾区の立石にある居酒屋「三平」で働いていた父が、のれん分けを許される形で開いたのがはじまり。お店には物心ついたときからしょっちゅう遊びに行っていて、テーブルでうたたねしたまま、スタッフにおんぶされて帰ったりしていました。だから僕はお店で育ったようなものです。若い頃は別の夢や迷いもありましたが、高校を卒業してから店に入って、継ぐと決めた。父が元気だった頃は、父、母、僕の親子三人が一緒になって働いていました。
開店当時のおもなメニューはもつ焼き、チューハイ、お新香くらいだったらしいんですが、今は日替わりのものを含めると70くらい。メニューの多さによく驚かれます(笑)。お店が繁盛するにつれて、徐々に増えていったんですね。牡蛎を3、4個まとめて揚げた「牡蛎フライ」などは父のオリジナルメニュー。さらに僕が作ったサラダや炒め物のメニューが加わった。フグ鍋や馬刺し、洋食まで何でもあります。
いつもカウンター越しにお客さんの声を聞いている
遅くとも昼には起きて仕入れに出かけ、料理の仕込みを始めます。あとはチューハイの配合をしたり、メニュー札を書いたり。簡単に見える料理も、手間がかかります。
たとえばもつ焼きの仕込みでは、火が通りにくい部位は薄く切るんですが、そうすると串に刺しづらい。でも、多少手間がかかっても仕上がりを優先する。そんなふうにスタッフ総出で仕込みの作業をしています。
この仕事をしていて「いいな」と思うのは、自分たちが手間ひまかけたものに対して、直接お客さんの反応が見られること。調理場でせっせと盛り付けをしているときも、カウンターの向こうから「これ、うまいな!」「おいしいね」といった声が聞こえてくると、思わず口元がゆるみますよね。お会計のときにお客さんが笑顔で「今日の刺身、よかったよ!」なんてわざわざ声をかけてくれることもある。そういうのは、何よりうれしいですね。
昔からの常連さんのためにも、
父が作った味を守っていきたい
2階までお客さんがいっぱいになるときは、調理場もフロアもてんてこまいになります。お客さんに「少しメニューを減らしたら?」と言われることもあるんですが、毎日のように通ってくれるお客さんのことを思うと、やっぱり減らすわけにはいかない。昨日とは違うものを、たくさんの中から選ぶ楽しみがあるのがウチの売りでもありますから。
変えるわけにはいかないのは、「味」も同じです。もつ焼き用のタレは、父が作ったものを少しずつ継ぎ足しながら使っています。塩も独自に調合しているんですが、タレはとくに昔からのファンが多くて。
「ここに来てからタレで食べるのが好きになったよ」と言ってくれる人もいる。そう言われたら、こっちも喜ぶ顔がずっと見たいじゃないですか。本当はもっと効率のいいやり方があるのかもしれませんが、二世代、三世代で通ってくれている常連さんもいる以上、父から受け継いだ味はずっと守っていきたいと思っています。
インタビュー 福島 奈美子 / 撮影 廣瀬 育子
大衆酒場「三平」
中嶋忠彦さん
江戸川区小岩の大衆居酒屋「三平」二代目店主。三姉妹の父。高校卒業後、家業でもあった同店で働き始める。現在は調理場4~5名、フロア数名を加えたスタッフと共にお店を切り盛りしている。下町居酒屋ならではの飾らない雰囲気に「安くてうまい」のお手本のようなメニューが魅力のお店。地元客はもちろん遠くから定期的に通うファンも多い。
「大衆酒場 三平」
住所:東京都江戸川区西小岩5-18-10
電話:03-3658-2288
営業時間: 17:00~翌1:30
定休日:木曜、第3水曜