愛車にエンジンをかけて職場に向かう瞬間
株式会社ワールドモーターライフ
松下 世緒さん
夢破れた先にあった人生。
自分にできることをやっていくだけ
「ドゥク ドゥクドゥクドゥクドゥク…」
地鳴りのようなアイドリングをするハーレーダビッドソン スポーツスターXL883N。エンジン音が最高です。中古なんで、70万円くらいです。貯金をはたいて買いました。
毎日この愛車で通勤しています。夏は走って10分そこらで暑さにめげそうになるんですけど、それでもこのエンジン音を聞くたびに、ちょっとだけ自分を奮い立たせることができるんです。
僕の仕事はハーレーのカスタムパーツを取り扱うショップのWeb制作・運用業務。加えて、電話やメールでの問い合わせ応対をすることもあります。
ハーレーは年式ごとにモデルやエンジンが違うため、パーツが適合する、しないというのがあります。だから、パーツやメンテなどの知識を身に付けなければなりませんでした。ハーレーのパーツを欲しがるお客様は、当然かなりのハーレーファンで、カスタムの経験や知識が豊富な方も。入社間もない自分が問い合わせに対応したとき、うまく案内できずに「お前じゃ話にならない」というようなことを言われたこともありました。
だから、腹をくくって中古のハーレーを買ったんです。これからどんどんパーツのカスタムもしていけたらなと思っています。自分で乗るようになってからは、ただマニュアルのように案内するのではなく「僕も欲しかったんですよね」「これカッコイイですよね」と、同じ趣味を持つ1ファンとして接客することができるようになりました。
この間、僕指名の電話がかかってきたんです。なんだろう?と思って電話を取ると
「この間教えてもらったパーツ、いい感じで使っているよ。また次もよろしく頼むよ」
と、言っていただきました。明日もまた、愛車にまたがって出勤します。バイクのエンジンをかけるときは、僕自身のエンジンもかかるんです。
25歳、役者に区切りを打って
Webデザイナーへ
夢は役者でした。一握りの人間しか成功しない世界だとわかっていましたが、当然、自分もその一握りになるべく、数えきれないほどのオーディションを受けました。ドラマ「ブラックジャックによろしく」の不良役その5、雑誌『スマート』や『samurai』のシーズンモデル・・・。いくつかの成果は出せたかなと思いながらも、食っていけなかった。役者やモデルの仕事よりも、バイトの時間や収入の方が圧倒的に多いのが現実でしたから。
25歳の頃「そろそろ潮時かな」と思って、一念発起して、Webを学ぶために大学に入学しました。周りは高校から入学してくる子が多かったから、遅れを取っている分、人よりもがんばらないといけない。
そうして順調にデザイン会社から内定をもらい、4月から働こうとしていた矢先、母から名古屋の実家を担保にして教育関係の事業を立ち上げたことを知らされました。すべて事後の話だったので唖然としました。そして母に「手伝って」と頼まれ、内定を断って実家に帰りました。
結局、母が体調を崩したりもして、事業は上手くいきませんでした。内定も、新卒のブランドも、家族の事業も失って、振り出しに戻っちゃったので、「このまま名古屋にいても仕方ないな」と東京に戻りました。
ゼロからスタートする覚悟
そして東京で就職したのが今の会社、株式会社ワールドモーターライフです。もともとバイクは好きで乗っていたんですけど、2回も事故にあって・・・。それ以来トラウマになり、正直もう乗る気はありませんでした。ただ、いろいろなものから吹っ切れたいような気持ちもあって。だからこそ、バイクとデザインという、これまで関わってきたけど、ちょっとブランクのある分野で、再挑戦しようと思ったのかもしれません。
入社した後は、SEO対策やスマートフォンサイトの立ち上げなどを任されました。スマホサイトは無事にリリースできたし、目的のキーワードは、10位だった検索順位を2位に上げることができました。
役者では失敗しました。家業も力になれず、無念でした。今の僕はほとんどゼロからのスタート。新たにここでがんばっていこうと思っています。
インタビュー 伊藤 紘子 / 撮影 桜坂 卓也
株式会社ワールドモーターライフ
Webデザイナー
松下 世緒さん
愛知県出身。
役者を目指して上京し、ドラマや雑誌のモデルなどをするも、25歳で断念。
Web業界を目指し、デジタルハリウッド大学に進学。
在学中から「one bang no bound(ワンバンノーバン)」というクリエイティブユニットを結成し、Webサイトの企画・開発・プロデュースを手掛ける。
現在はハーレーパーツ販売&カスタムを行う株式会社ワールドモーターライフにて、Webデザイナーとしてサイト運用やSEOなどを担当。