目測で完璧に作品を水平に飾れた瞬間
新宿眼科画廊
たなか ちえこさん
表現する側からサポートする側へ
新宿ゴールデン街のすぐ近くで、「新宿眼科画廊」という名前のギャラリーを運営しています。オープンしてから12年くらいになります。
もともとは私も絵を描いていて、表現をする側の人間でした。でも、だんだん作家として自分の表現をするより、他の作家さんをお手伝いをすることが多くなってきたんです。たくさんいる作家の数に対して、サポートする人間の数って圧倒的に少ないんですよ。それなら私がサポート役になろうかなって。しばらくは自分の作家活動と並行していたのですが、自分の中でバランスが取れなくなってきちゃったので、作品を作るのは一切やめて、アーティストたちを支えることに専念しました。
当時は貸画廊が全盛の時代で、私もお金を払ってギャラリーを借りて自分の作品を展示したり、展示会の企画をずいぶんたくさん行っていました。でも、ギャラリーの方針や運営の仕方、自由度の低さが、次第に気になるようになってきて、私だったら違う方法でやるのになって考えることが増えてきちゃったんです。それで思い切って、自分のギャラリーを持つことにしました。
場所を新宿に決めたのは、すごく雑多な街で、いろいろな文化が混在しているところだからです。ギャラリーといえば銀座が有名なんですが、きっちりとした銀座のギャラリーとは一線を画した自由な場所にしたかったというのもありました。
作家さんの表現の可能性を潰したくない
最近は本当に、当局の展示への表現規制が厳しいじゃないですか。うちのギャラリーで展示をした人でも、作品が猥褻にあたるとされ、逮捕された作家がいます。同年、他の美術館で別の作家の展示でしたが、警察の指導が入ったりして、美術館やギャラリー側は神経質になっています。
すると、作家さんが思い切った表現をしたいと考えていても、なかなかコンセプト通りの開催ができなくて、どこのギャラリーの展示も似たり寄ったりの無難なものになってしまいます。すべて同じではつまらないと思うんですよね。
作家さんが表現したいと言うんだったら、実現できるお手伝いをする場所でありたい。もちろん誰だって逮捕なんてされたくないですよ。でも、過激すぎるから展示できませんって、可能性を最初から潰すことはしたくないです。
だから、どういう形なら趣旨を変えずに展示を実現できるかを、作家さんと一緒に考えます。何かあるかもしれないからやらない、ではなく、何かあったときの対応を考えた方が、ずっといいです。
作品に集中してもらいたいから
仕事柄、展示を観る機会が多くあるのですが、壁が汚れていていたり、作品が傾いていたり、ちょっとしたことで作品そのものに集中できなくなってしまうことがあります。うちのギャラリーは、観る人が作品に集中できる空間でありたいですから、どうしたら観る人が作品に集中できるかを常に考えていますね。
普通、作品の額を壁に設営するときには、レーザー水準器などを使ってきっちりと水平を測るんですけど、だからといって、必ずしも水平に見えるわけじゃないんです。周りにあるものとの相対的な関係によって、まっすぐなはずなのに傾いて見えちゃったり、額自体が歪んでいるせいで水平に見えないこともあります。一番頼りになるのは自分の目。自分の目を信じて、完全に目測で飾って、よしこれでまっすぐって思ったものが、実際に機械で測定してもぴったり水平だったときには、本当に嬉しいし気持ちいいんですよ。マニアックな喜びですけどね。
お喋りするだけでも大歓迎
うちのギャラリーは、作家さんもお客さんも独特なんです。いい意味ですごく変。こんな人、世の中にいたんだ、みたいな人ばっかりです。びっくりすることの連続ですけど、何でも楽しむことができないと、ギャラリストの仕事はやっていけないですね。
悩み相談をしに来る人も多いですよ。作家さんも、お客さんも、ときにはギャラリーをやっている同業者も来ます。アートの世界にいる人たちって、やっぱりある種の生きにくさと引き換えに高い感受性を持っているところがありますから、悩みごとも多いんですよね。彼ら、彼女たちの話し相手になったり、居場所になったりするのもギャラリーの重要な役割だと思います。お喋りするためだけにいらっしゃるのだって、大歓迎ですよ。
インタビュー タナカ トシノリ / 撮影 タナカ トシノリ
新宿眼科画廊
ディレクター
たなか ちえこさん
ギャラリスト、アーティスト。
写真や映像作品、演劇など、様々なジャンルの展覧会を行っている。ギャラリー名の由来は、「目に良い場所」という意味。(※眼科は併設しておらず)
「新宿眼科画廊」
03-5285-8822
住所:東京都新宿区新宿5-18-11
営業時間:12:00~20:00(展示最終日~17:00)/ 木曜定休
http://www.gankagarou.com