会社の飲み会で盛り上がるスタッフを見た瞬間
株式会社acrodemand
小山 淳さん
ドラクエ「ルイーダの酒場」のような場所
お店作りをしていくうえで、ドラクエの「ルイーダの酒場」が頭にありました。ゲームのストーリーに出てくる酒場です。主人公はここで情報収集をしたり、仲間を見つけたりします。こういう「人と人とのつながり」が生まれる場所を作りたいと思い、飲食業で起業しました。
もともとは会計士として働いていて、仕事をするにも何をするにも人とのつながりが大事だと実感してきました。その「つながり」が生まれる場を自分自身で築き上げて、さらに多くの人に利用してもらいたい、そんな思いでお店作りをしています。
お店の店長と出会ったのも同級生だった友人との「つながり」があったからです。タイミングよく経験豊富なシェフをメンバーに迎えられて、本当に感謝しています。もし僕と同級生がぎくしゃくした関係だったら、この出会いは実現しなかった。そう思うと、自分の人間関係はこれからも大事にしていきたいと思いますよ。
会計士の仕事を長くしていたので、実は飲食業の経験は少ないんです。その上今も個人で会計士を続けているので、地方出張も多いんです。だから、お店の運営は本当にまずスタッフありきなんです。僕は集客のためのメディア周りの仕事や、長期的な戦略をたてるなどのサポートが担当。お店の方は実際にフロントに立ってくれているスタッフを信頼して任せています。
スタッフ第一主義
最近うれしかった出来事は、お店のスタッフ全員と飲み会を開いてすごく盛り上がったこと。盛り上がりは二次会のカラオケまで続きました。僕はそういうスタッフの姿を見ていて安心しましたね。現場にあまり立てない僕にとっては、ある意味お客さんではなくスタッフが直接の顧客。スタッフが気持ちよく仕事をすれば、自然とお客さんの満足につながると思っています。ですので、オーナーとして僕はまず、スタッフを大事にしようと意識しています。彼らが自然体で楽しく仕事ができる環境を整えていきたいと考えている。だからこそ、楽しそうにカラオケで盛り上がる姿を見ることができてうれしかったんですね。
スタッフとは常に対等でいたいと思っています。でも僕はまだまだこの業界の経験や知識が足りません。オーナーという立場上、指示を出すこともありますが、飲食経験が浅い僕にとやかく言われるのってきっと嫌だと思うんです。経験が乏しいのはしょうがないから、できるだけそれをカバーしようとお酒の勉強はいろいろとしました。その証として、ワインソムリエ、テキーラ・マエストロ、ラムコンシェルジュの資格も取得。資格取得者を表すピンバッジを身に付けて、飲み会のネタにしたいという不純な動機もありましたが(笑)。
売上数値を信じない
会計士の仕事もしているので数字の扱いには慣れています。でも、むしろ数字からは読み取れないものを見極めたいと思っています。たとえば、その日の売上数値がよくても、もし店の雰囲気が悪かったら同じ数値を翌月まで維持できない。数字でその日の結果は明確にわかるのですが、未来にどうつながっていくかまでは読み取れないんですよね。売上数値の背景にあるお店の雰囲気やスタッフのモチベーションの方がよっぽど大事です。
オーナーとしては数字を追う必要がありますが、そこだけを見て経営判断をしたりスタッフに指示を出したりするのは机上の空論だと思っています。数字の背景のストーリーを読み取るためにも、できる限り現場に足を運ぶオーナーになっていきたい。
もともと「つながり」を生みたいと思ってはじめた事業なので、関わる人が多ければ多いほどそのチャンスも増えると考えています。そう考えると自然と2店舗目3店舗目が視野に入ってきますね。チャンスがあれば多店舗展開。それが今後の一つのビジョンです。
インタビュー 吉田麻葉 / 撮影 Aiko Shibata
株式会社acrodemand
代表取締役
小山 淳さん
大学卒業後、会計事務所に5年間勤務。2012年に独立し、飲食事業を柱とする株式会社acrodemandを立ち上げる。前身となるワインバーcoquettishを経た後、2015年に「Vin de Trente Cinq(ヴァン・デ・トラントサンク)」としてリニューアル。代表取締役として事業を牽引するほか、個人で会計士の仕事も続けている。ワインソムリエ、テキーラ・マエストロ、ラムコンシェルジュの資格を持つ。